2024年度同朋大学入学式式辞 本日、同朋大学に入学された新入生の皆さん、また保護者の皆さま、御入学おめでとうございます。同朋大学は皆さんを心より歓迎します。来賓の皆さま、本日は御多用のなか御列席を賜りましたこと、御礼申し上げます。ただいま二〇二四年度、学部二八二名、大学院研究科九名、別科二一名の入学を仏前に御報告いたしました。 新入生の皆さんのなかには、入学式にいきなりお経が読み上げられて、戸惑っている方もおられるかと思います。現在、全国には私立大学が六二〇余りあり、そのうち五〇校ほどが、仏教系の大学です。同朋大学もそのひとつで、いまから一〇〇年ほど前、名古屋市中区にある東別院(真宗大谷派名古屋別院)の境内に、もとは仏教の専門学校として生まれました。 そのため、大学の名前もまた、仏教のことばから来ています。同朋大学は、「親鸞」という方が明らかにされた「浄土真宗」の教えに基づく大学です。私たちは親鸞聖人(しんらんしょうにん)と呼んでいます。親鸞聖人は、平安時代の末期から鎌倉時代にかけて、それまで一部の貴族に独占されていた仏教を解放し、仏様の前では人はみな平等であり、身分が高くても低くても、財産があってもなくても、誰もが等しく救われる、と説きました。その教えは人々の心をとらえ、いまだったら「教祖」とか「カリスマ」と呼ばれてもおかしくないくらい、沢山の弟子に慕われました。ですが本人は「弟子ひとりももたず」と言い、自らのもとに集った仲間を「御同朋・御同行」(おんどうぼう・おんどうぎょう)、ともに御仏(みほとけ)の教えに生きる仲間、ともに道を歩むともがら、と言っておられたそうです。その「同朋」(どうぼう)の精神、生まれも育ちも性別も立場も、そして心も身体もそれぞれに異なる人々が、同じいのちをいただいた身として、ともに救われる道を歩む、そういう生き方を目指す姿勢が、同朋大学の名前には込められています。 その同朋の精神を、もう少し分かりやすくしようと思って作ったスローガンが「共なるいのちを生きる」(英語ではLiving Together in Diversityといいます)という学園の標語です。みなさん、この「共なるいのちを生きる」ということばを、卒業までにぜひ身につけていってください。そしてこの「共なるいのちを生きる」という言葉を胸に、いま、私たちの周りにある様々な課題に向き合ってください。 残念ながら現代の世界は、多様な価値観を認め合い「共なるいのちを生きる」よりも、むしろ正反対の方向に進んでいます。先月はロシアで大統領選挙があり、現大統領が圧倒的な得票差で五度目の再選を果たし、戦争の続行を訴えました。この秋にはアメリカで大統領選挙があり、「アメリカ第一」の復活を公約に掲げる前の大統領が、返り咲きに向けて怪気炎をあげています。世界のリーダーになろうとする人々が、自分たちの正義を疑わず、それに従わないいのちを力尽くで排除しようとしています。SNSやネット動画の世界には、論争相手の主張を理解せず、ただ揚げ足を取り、あら探しをして、一方的に勝ちを宣言する人々が沢山います。 同朋大学には、実は人前で堂々と自己主張できる学生は多くありません。むしろ押しが弱くて優しすぎる学生が多いので、教職員はいつも心配しています。けれども、そういう皆さんの先輩たちが卒業後、地域社会に積極的に飛び込み、仕事仲間と対話し、連帯して、少しずつ現実を動かしています。人の上に立って演説していては決してできないやり方で、現に社会を変えています。そういう知性と技術を身につけて卒業したのです。 本学では、競技大会やコンテストで正々堂々と勝つこと以外の勝ち方は学べません。相手のマウントをとるためだけの論破の技術は、ここでは教えていません。互いを尊重し、「共なるいのちを生きる」精神をはぐくみ、差別・貧困・闘争に満ちた社会からの救いを求める、そのための学びの道場が同朋大学です。 人間は社会的な生きもので、社会は人間によって構成されています。人間とは何か、人間の作り出した文化とは何かを問う「文学部」の学びも、この社会に、より良い公共空間を創造するにはどうしたらよいかを探求する「社会福祉学部」の学びも、それらの上に成り立っている大学院の学びも、そして本学創立以来の仏教専修に特化した別科の学びも、根底ではすべてつながっています。そのつながっている中で、自由に「人間と社会」を学ぶための様々なツールが、このキャンパスに用意されています。文学、歴史、言語、思想、宗教、あるいは福祉、医療、保健、援助、行政、情報、教育、心理など、小さな手作りの学舎(まなびや)で、いささか見栄えには欠けますが、中身はぎっしり詰まっています。どうか存分に、皆さんの人間力を磨いてください。私も教員の一員として、来週から皆さんと教室でお会いすることを、今から楽しみにしています。 改めまして、本日はおめでとうございます。同朋大学は皆さんを心より歓迎いたします。 二〇二四年四月一日同朋大学学長 福田 琢