2023学長式辞

 2023年度卒業式式辞

 桜の蕾もまさに今花開かんとする中、今日の卒業・修了式を迎えられた文学部62人、社会福祉学部176人の計238人の皆様、大学院人間学研究科博士前期課程9人、博士後期課程1人、別科23人の総計271人の皆様、卒業・修了、本当におめでとうございます。同朋大学を代表して、心からの祝福を送ります。また、お子様の成長を見守りながら、今日この日を迎えられた保護者の皆様に、お礼を申しあげます。また、今日の式典には、同窓会長をはじめ、宗門各位、同朋学園の関係機関の皆様に出席いただき、5年ぶりに2018年度以前の形での卒業式となりましたこと、心からお礼を申し上げます。
 人間学研究科博士後期課程の学位授与は第2号ですが、文学研究科と通算すれば18人の方に博士の学位を授与したことになり、研究者の道を歩まれることを共にお祝いしたいと思います。また、同研究科人間福祉分野および臨床心理分野の修士号を授与した9人の皆様、おめでとうございます。
 学部卒業生の皆様は、同朋大学創立70年目にあたる2020年の節目の年、新型コロナ元年に入学されたのですが、入学式ができなかった唯一の学年になるのではないでしょうか。入学後3年間は、世界でも国内でも新型コロナウィルスCOVID19の変異株が出現し、翻弄されっぱなしでした。学生も教職員も慣れない中でオンライン授業などすべて手探りで始めなければなりませんでした。貸し出し用Wi⁻Fiやノートパソコンの購入貸し出しなど、思い返せばついこの間のことでもあり、はるか昔のことのようでもあります。その後の3年間は入学式や卒業式も屋外や、密を避けて入場制限をした上で行っておりましたが、今年度は屋内で大学院・別科と一緒に、保護者の方も参加される中で挙行することができました。東別院の新入生研修も1年の4月の実施が、2年生になってからの4月に延びたと記憶しています。その苦労を共に分かち合った皆さんの卒業式で式辞を述べることに感慨深いものがありますし、この卒業式の式辞が約50年の長きにわたる大学教員生活の最後になることも、感慨深いものがあります。


 皆さんご存じのように同朋大学は浄土真宗の祖、親鸞聖人の教え「同朋和敬」を建学の理念とする大学で、多様性を尊重する学び舎です。社会福祉学部のM君、彼は先天性心疾患をはじめいくつもの病気を抱えながら、学長室に毎日のように「学長、元気にしてますか」と顔を出してくれ、時には悩みを話すこともあり、酸素ボンベが離せない彼ですが、今日の卒業生の一人として、羽ばたいてくれることを本当に嬉しく思います。文学部の学生の方々は、卒業論文が必修で、それぞれが忘れられない論文を仕上げてくれました。社会福祉学部は卒論またはゼミ論を一人一人が仕上げ、卒論の発表会も聞くことが出来ました。また、強化クラブ、特に野球部の活躍は、学長の仕事の励ましにもなりました。学長になってからの6年間、コロナ禍で中止や観戦禁止になった時期もありましたが、野球部の試合は結構見に行きました。今年度の秋のリーグ戦では愛知大学野球リーグ2部12チームの中で22年ぶりに優勝しました。柔道部、女子バスケット部の応援にも何度か行き、女子サッカー部の活躍など、スポーツの感動は私や大学に勇気を与えてくれるものでした。今後の後輩たちの活躍に期待しましょう。


 さて、卒業・修了していく君たちにぜひ考え続けてほしいいくつかの点を述べることにしますので、少し時間をください。


1. 君たちの生きている地球は、「人新世」の時代と言われます。気候変動を国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化」の時代と言いましたが、その真っただ中を生きていくことになります。気温上昇を1.5℃に抑えるためには、脱炭素が必須と言われ続けているにもかかわらず、我が国の対応は大幅に遅れていますし、大地震国日本での原発再稼働など、やってはならない狂気の沙汰というしかありません。地下資源から地上資源エネルギーへの転換が、一日でも早く求められていることを頭にとどめてください。


2. 20世紀は「戦争と科学の世紀」と呼ばれ、君たちの多くが生を受けた21世紀は「非戦と平和の世紀」になると期待されました。しかし、21世紀に入ってもなお、イラク戦争やアフガン戦争が続き、一昨年のロシアのウクライナ侵攻から2年が経過し、昨年10月7日以来イスラエルがガザでのジェノサイドにより、3万人を超える子供を含む無辜の人々が亡くなりました。なぜ、国連憲章に違反したこのようなことが起こるのか、考えてみてください。700万年前に類人猿から分化した人類史の中で99%は戦争のない社会であったことを2月の同朋学会の講演で山極寿一さんが述べていたことを思い出します。日本は、我が国の最高法規である憲法の第九条で、非戦と話し合いによる紛争解決を誓いました。日本国憲法誕生の3年前に武力行使を禁じた国連憲章ができたことを記憶にとどめてください。ドイツのヴァイツゼッカー第6代大統領は1985年の議会演説で「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。」と述べ、この言葉を私たちは心に深く刻まなくてはなりません。


3. この間、大きく変わったのは交通手段と通信・情報の分野だと思います。その中で、富の偏重は拡大し、格差と分断が進みました。情報・AIがこれを解決してくれるでしょうか。先の山極さんは、逆に人間の高い適応能力がAIに人間世界を支配させる可能性を危惧し、AIにはない人間にしかない「文化」の継承の重要性を指摘されました。これからの社会には、共同や共生・多様性を包摂していくことが本当に重要になってくると思います。人生の節目節目で、「なぜ、どうして」と考え、立ち止まって自らの頭で考え、振り返る勇気こそが新しい時代を築いてくれるものと私は確信しています。


 君たちのこれからの未来がどのようなものになるか、私たちは想像することができませんが、これからの社会を築いていくのは間違いなく、君たち若者です。同朋大学での学生生活で、「共なるいのちを生きる」ことの意味をつかんでいただけたと思います。そして、それぞれが同朋大学で学ばれた専門分野の「知」や師との出会い、一生の友との出会いを大切にしながら、激動する世界・社会の中で、より平等で格差のない一人一人が大切にされる社会の構築のために、学んだ力を発揮し、社会に還元してほしいと願っています。


 本日は卒業・修了式、本当におめでとうございます。

 

2024年3月22日

同朋大学学長 松田 正久