神守中学校・教育ボランティア活動への参画

同朋大学からバスで20分、津島市にある市立神守中学校で実施されている地域ボランティアに同朋大学の教員希望の学生を中心に参画して活動をサポートしています。
本記事では、その取組の一環を紹介を通じて学生の日々の取組を案内すると共に、この取組に参加を希望する学生や地域のみなさまへの参考になることを目的とし掲載します。

神守中学校 豆ボラとは
~中学校が直面していた課題〜

神守中学校校長・椙村明人先生は、以下の点を中心に通称「豆ボラ」を発足させるに至った背景をご説明くださいました。
椙村校長のコメント(一部抜粋)

中高生に対する地域の教育力の復活を

「中・高校生は小学生・大学生に比べ地域から遊離している。小学生は子ども会、大学生は大学祭やボランティア、消防団などの青年の集い、アルバイトなど地域との接点があるが、中学入学の途端に部活動~受験勉強と土日まで忙しくなり、地域と関わる接点と時間が無くなる。これは、地域から学校に向けても同じ。中・高校生のことをしかってくれる『怖いおじさん』などの存在や・関わる機会の欠如が起きている。」

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教諭の授業への集中を

「学校の運営行事や、生活面、環境への取組など、教員が授業へ割ける時間を減らしている要因を外部のボランティアさんに任せ、より授業へ集中して取り組めるような環境が必要とされていた。」

学校がオープンな場へ

「学校という場を介して地域は学生と関わり、学生は関わってもらった経験から自分より年下、もしくは下の世代へ関わっていくという良い循環を生み出したい。」

現状を知ってもらう

「中学は、『荒れた学校』の烙印を押されると、全体の学生の数%の話や数年前の状態の話でもその学校は現状全部がそういう印象で見られてしまう。また、教諭/学生の努力で雰囲気が変わっていっても悪い噂ほど一人歩きしがち。そうではなくて、地域の人の目で実際の学校の状態を良いところも悪いところも見て欲しい。」

上記のような課題や問題意識を抱えていたところ、文部科学省・行政(県・市)が一体となって支援・予算援助をする「学校支援地域本部」事業が発足。椙村校長は積極参加を決め、認可を受けました。

始めたこと

分析

椙村校長は、分析手法を利用し神守中とその環境における状態を把握。同地域には、「弱くはなっているがまだ学生や子どもたちに関わろうという意識や土壌が残っている。きっかけと、お互いにとってメリットになるような取組を実施すれば、地域全体で良くしていこうという流れの発生が計算できた。」

ボランティア本部の設置

ボランティア事業を8つの事業に分けて、地域の有志をつのることに。また、広報紙をつくり、地域の全世帯に配布。結果、現在では130人のボランティア希望者が集まり、学校の教員の介在なく自由に学校に出入りし、運営をしてもらえるまでに至った。運営の過程で、同朋大学を校長自ら訪問され、本学社会福祉学部教授・目黒教授とも意見交換も実施。自発的な組織として、ボランティア組織が走り出した。

本学学生の取組

その8事業の1つ「学習支援分野」で、土曜の「寺子屋教室」と、「特別支援学級のサポート」が発足。ボランティア第1号生として本学で教員を目指していた矢野良太さん(平成24年3月卒業)が教授の紹介で応募。精力的な取組と、後輩への誘いも続けていた結果、同取組は10名以上がボランティアで参加する規模で運営されるように至る。

事業内容

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勉強でわからないところを自由に大学生に質問できる「寺子屋教室」、「特別支援学級生徒の授業支援や通常学級生徒への学習支援」に、希望する大学生が集まり中学生の学習支援を実施。大学生による勉強指導は、年齢が近い兄/姉世代の人だから話せる悩み相談などにも発展し、先生と生徒という立場でないことで生み出せる親しい関係性が勉強面・情緒面でのサポートに有効に働いた。中にはプライベートの家庭教師まで頼まれる学生まで現れるほどの信頼関係が芽生えた方も。

支援教室では、親身にサポートされること、また熱心で明るく接する人間関係から信頼を得て、毎週学生の先生が来るのを楽しみに職員室の周りに立ち、来ないのがわかるとしょんぼり帰る姿を見かけるほどに。大学生にとっても、教育実習でもやりきることができない面まで生徒と関われること、また、学校で評価とは無縁の軸で現職教員と関われることにより、自己の成長と教員という仕事を理解する最高の機会となっている。矢野さんは、その取組への姿勢が評価され、ボランティア業務が円滑に進められるようにと

ボランティア当日の様子

当日は特別支援教室のIT授業補助に入った矢野さん。コンピューターを利用した情報の授業の中、親しげにコミュニケーションをとりながら、生徒の行動をサポートしています。今やっていることや、次に何をするか、今関心のあることなど会話をしながら授業進行のサポートをします。授業後は一緒に話をしながら教室へ。今日取組んだことを記入し、内容をチェック。明日の時間割などの連絡事項を確認するなどホームルームの時間も矢野さんが仕切っていました。担任の先生は、必要なことを伝えたり、矢野さんへアドバイスをしたりと、生徒・矢野さんにとって有意義な時間となるようアドバイザーのような立場で時間を使っていただいていた。取材当日は矢野さんのボランティア最終日。最後は学生から抱きついて別れを惜しむ姿も。

与えあう関係に

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椙村校長が「一方的にボランティアに与えられるだけではいけない」ということで、ボランティアの大学生を対象に教員採用試験の勉強会を年間約10回実施。参加した矢野さんは「とても勉強になった。教員採用試験の勉強会では、面接の練習や動機の確認の中で、自己分析や自分の動機/実践/考えの浅さなどに多くの気付きがあった。他の教員を目指す学生とのやりとりや取組方も勉強になった。また、自分の人格面の成長や、教育・生徒への関心が増すこと、ボランティアに参加している世代が広いため影響の幅が広がったりするつながりの面もとても有益だった。」と振り返る。

卒業後の進路に関しても、校長先生の推薦を受け、県下中学校における特別支援学級教諭の仕事に就職した矢野さん。「こんなに一生懸命やってくれて、本当にありがたかった。自分もよく見ていて頭が下がる思いの学生さんだったので、強く推薦をさせてもらった」と椙村校長の評もいただいた。

ボランティアを実施して変わったこと

学校

学校がオープンになることにより、教育環境が良化。地元企業の社長、職人など先生では提供できない職業情報を持っている人によるキャリア教育や、芝生や図書管理のバーコード化事業などがボランティアスタッフ主導で推進。教員の、教育以外への業務負担も軽減傾向に。また、中学生の地域への貢献意識、ボランティアへの関心も大きく変化が。地域の小学校への学習支援・運動会へのサポートを積極的に応募したり、東北の震災ボランティアへ100人以上が参加。メディアでも大きく取り上げられるなど、大きなうねりができつつある。中学生の中には、矢野さんに「自分も矢野さんと同じ特別支援の先生を目指す」ということを発言する学生も。

地球

「本当は教育に関わることをやりたいが、機会や方法が無い」と思いをくすぶらせていた方が潜在的に多くいて、その人たちにできることと場を提供することによる積極参加が生まれた。中学生の教育の手段・機会・質の向上が進むことにより、地域の環境向上がすることで、地域ボランティアのみなさんへの還元も。自然に挨拶が出る中学生、道で声をかけてもらえる関係が増えるなどオープンな環境への変化が。取組に共感して、貴重な時間を削って参加してくれる方や、私財を活動資金として寄付される方も。寄付資金も利用して、東北震災地域ボランティアを実施した活動報告をしたところ、「こういうことに利用してもらえるなら喜んで」と毎年の寄付を約束される方も。

「教職員やPTAの中には外部の非学校関係者が自由に学校に出入りすることに抵抗を感じる方もいらっしゃったのでは?」という疑問に対して、「目的が関わる全員のメリットになるよう意識して設計したため、弊害や反対はほとんど無かった」と力強い回答が。

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「学校の運営をスムーズに、自分たちの業務負担を助けてもらう存在として参加してもらうことを理解していたので内部に抵抗感は無かった。たとえば、「職場体験学習」の受入アポイントを地域の職場に取るとなったとき、教員が授業の合間で対応すると1週間は時間を見なくてはいけない。だが、ボランティアメンバーにお任せすると、まとまった時間と自分の人脈も使うなどして1日で完璧にこなしてくれる。その実感が重なってきているから、反対する意味はもう無いのでは。また、ボランティアで参加しようという方々は、意識が高くてこちらから問題を指摘する必要が無い方ばかり」と現状をご説明いただいた。

椙村校長「全体を見渡して、負担や恩恵がいずれか一方だけに偏っている状態にならないよう交通整理には気を配り、『WIN-WIN』の関係を常に意識しています。」参加するそれぞれが、役割や思いを形にして取組まれていることがわかります。

今後の目指すあり方

続けていくこと。ESD「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)」を軸に、サイクル化を目指す。

  • 地域のつながりのサイクル化を
  • 地域の希薄な関係を改善
  • 教えてもらった学生がまた、この取組に提供者として帰ってくること
  • 良い循環を大きく、強く
  • 親以外にも学生が育てられる関係性に
  • 中高生は与えられたら動く。中高生の可能性をもっと大きく

同朋大学で生まれたサイクル

矢野さんの紹介で、教員免許履修を目指す後輩学生が参加。矢野さんの後輩で、現在も参加している熊倉秀一さん(人文学科4年)は「非常に勉強になります。周囲のボランティアや先生方も非常に熱心で刺激になり、自分のことをよく理解するきっかけにも。今後は、同じく教職を目指す後輩を巻き込んで、この活動を継続していけるようにしたい」と、中学生・大学生の双方向に意味のある活動と振り返る。熊倉さんは、不登校支援事業の会議にも出席し、不登校の生徒を持つ家族と懇談。体験を交えて話すことや真摯な態度が信頼を得て、電話番号を交換して連絡個別に支援サポートを実施するなど、継続的な不登校支援の活動に従事することを決心。矢野さんも「試験突破だけでなく、教員を目指す学生という立場から生徒に教わることなどが本当に多いです。後輩で教員を目指す学生には是非参加して欲しい」と語る。

kuma

校長先生から、本ボランティアに興味がある学生へのメッセージ

椙村校長「まずは体験して欲しいですね。未知の世界へ飛び込むことを恐れずやって欲しいと思います。(経験のみを重んずる)経験主義ではないけれども、体験したことは様々なことへの力になります。先入観、苦手意識があることでも参加して、人生を面白くして欲しい。失敗することは恐れないで欲しいですね、命までは取られないのだから。」

本取組に関心のある学生・一般の方は神守中学校ホームページにアクセスしてください。